• テキストサイズ

七十二候

第14章 螳螂生(かまきりしょうず)


 私は会話に困ったのもあり、相談してみることにした。
「ところで徹。主将の極意を教えて欲しいんだけど」
「なに、どうしたのさ」
 私は悩んでいたことを話した。徹はうーん、と少しの間考えてこう言った。
「一番大切なのは、目標を全員で設定すること。全員が納得するまで話し合ってみたら? 吹奏楽部はバレー部より人数が多いから大変だろうけどさ」
「うん」
「で、一人一人、その目標に向けてやるべきこと、今できていないことを把握する。それを補うにはどうすればいいのか考える。こればかりは萌が考えないとね。もちろん、周りを頼って」
「うん」
「うんしか言わないじゃん」
「うん? あ、ありがとう。ごもっともすぎて。どうすべきか頭の中でかみ砕いてた」
 それは根本的なアドバイスだが、一番崩れてはならない土台づくり。
 徹は主将であり、吹奏楽に例えると指揮者のような人だ。この人がいると部が、音楽が変わるような気がした。

「私、告白の件断ったよ。やっぱり今は部活も進路も頑張りたいし」
「そっか」
 徹が立ち止まって、ちゃんと私を見て言った。だけどその表情から感情は読み取れなかった。
「次はちゃんと好きな人、できるといいね」
 すこし引っかかりのある言葉。一瞬そう思った。
「う、うん。そうなると素敵だね」
 なんでそんなこと言うんだろう。そんなこと徹に関係あるの?なんでそんなに私のことを気にしてくれるんだろう。
 それに、私に誰か好きな人ができるのは喜ばしいことなの?
 徹の気持ちは俗に言う乙女心より難しい。そして私はこの感情の正体が分からなかった。
/ 234ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp