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七十二候

第14章 螳螂生(かまきりしょうず)


 岩ちゃんから、メッセージと共にグランドキャニオンの渓谷の写真が送られた。この世とは思えない壮大な景色、幻想的な光景。その圧倒的な存在感になんだか自分という存在のちっぽけさを感じてしまうくらいだった。
「うわっすごい! 圧倒されるね。自然は偉大だ……。元気貰えた」
 サン・フアンにも「イスチグアラスト/タランパジャ自然公園群」という自然保護地域があると徹から聞いたことがあるが、その約2億年の歴史を持つ雄大な地層の写真を見せてもらったときと同じ気持ちになった。

 とにかく今の環境で頑張らないことには始まらない。私はまだまだ無名だ。海日本のコンクールで入賞せねば。みんなに私を知ってもらって、私の音楽を好きになってもらいたいんだ。

「萌、この前の学生への指導はどうだ?」
「おかげさまで、慣れてきたよ。ありがとね! 最近は、部長さんから悩みを相談されているよ」
「それは、萌の経験したことを元にアドバイスしてあげるべきだな」
「うん、そうだね」

 ちょうど7年前……高3のときのこの時期は、インターハイ予選で青葉城西は決勝で白鳥沢に敗北した頃だった。徹も岩ちゃんも、前だけを見て次の春高に向けてチーム一丸となって再スタートをしたところ。
 私は高校最後の定期演奏会に向けて練習をしていた。1年生の人となりを把握できてきたこの頃、私は悩んでいた。部長として個性的な部員たちをどうまとめるのか。
 それなりに吹奏楽の強豪校だったため、70名余りの大所帯の部だったが、大抵の部員は志を高く持っていた。でも人それぞれ志向は違う。コンクールの結果を重視する人、楽しさ重視の人、練習を減らして欲しい人、ソロを吹きたい人、目立つことはしたくない人……。
 それぞれいろんな考えはあって然るべきだ。だからこそチームとしての正解が何なのか分からなくなる。その点、徹は主将としての才覚は素晴らしかった。あんな奴だけど、頭もいい。私よりもだいたいのテストの点数は良かった。悔しい。
 そんなある日、徹と帰るタイミングが一緒になった。違うクラスの男の子との件で気まずいままでいたのに、頼みの岩ちゃんは用事があって先に帰ったらしい。
「決勝お疲れ様。悔しかったね」
「ありがと。次は勝つから!」
「うん、次は春高予選か。高校3年間の部活の集大成だもんね。悔いのないようにお互い頑張ろうね」
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