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七十二候

第14章 螳螂生(かまきりしょうず)


 最近は雨模様だなと思っていたら、東京は梅雨入りしたようだ。どんよりとした日々が続き、気持ちも滅入る。
 しかし紫陽花の綺麗な季節になり、道端で紫陽花を見かけたらついついスマホで写真を撮ってしまう。曇り空に輝く青や紫、白の宝石たちは光り輝いてちょっとだけ憂鬱な気持ちを晴らしてくれる。

「岩ちゃん、誕生日おめでとう!」
「ありがとな。今日も変わりない日々を過ごす予定だから嬉しいわ。及川とはどうだ?」
「この前、私の誕生日のときに一緒にビデオチャットでご飯してさ。その時演奏も披露したんだ」
「いいな、プロの演奏を独り占めとは贅沢だな。そういえば萌の動画、サイトで観た。すげぇな!動画に知ってる人が映ってるってすげぇよ」
「ありがと、岩ちゃんにそう言ってもらえると嬉しい。東京は紫陽花が綺麗だよ。じゃあ今から公演なの。行ってくるね」
 私は岩ちゃんへ先ほど撮影した紫陽花の画像を添えてメッセージを送った。
 今日は吹奏楽団の定期演奏会。徹が贈ってくれたのはアルゼンチン出身デザイナーのアパレルブランドの黒い演奏会用衣装だった。今日はそれを着て演奏会に臨む。ソロ用の胸元が空いた派手なドレスではなく、しっかり吹奏楽に適したものであったあたり、さすがだと思う。きっといろいろ調べてくれたんだろうな。レースがあしらわれていて、結構可愛い。
 ちなみに日本のサイトで購入してくれたのですぐに届いた。海外への宅配便は送るまでに日数もかかれば税関などの手続きも面倒だ。

 リハ後、楽屋で衣装を着た姿を写真に撮って徹に送る。今ならギリギリ起きている時間かもしれない。
「衣装どうかな? ピッタリだったよ。ありがとね!頑張ってくるね」
「可愛い! さすが及川さんのセンスと言わざるを得ない……。サイズ問題なくてよかった。頑張ってきてね」
 すぐに返事を貰った。可愛いのは衣装の方か、私を含めてなのか分からなかったが、褒めてもらえて気分が上がる。よし、今日もお客さんの喜ぶ顔が見られるように頑張ろう。

 演奏会終了後、楽屋でスマホを見ると岩ちゃんから返信があった。
「演奏会お疲れ様。紫陽花の季節なんだな。お返しにこれ、こないだアリゾナに行ったときの写真」
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