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七十二候

第12章 紅花栄(べにばなさかう)


 5月は吹奏楽団で4本の公演がある。明日5月31日は仙台公演だ。そして、今日は福島で本番をこなし、そのままその足で仙台へ向かう。新幹線で向かう道中、いつも良くしてくれる大窪さんと車内でプチ打ち上げと称してビールを飲んでいた。
「雨宮さんは実家がこっちだったね」
「はい、なので今日は実家へ帰ります」
 フランスから帰ってきてしばらくは実家で過ごしたため、そこまで実家に懐かしさはないが、会えるときに親に会っておこう。近況報告とこれまでのお礼をちゃんと言おうと思っていた。

「萌、おかえり」
 フランスから帰ってきて感じたが、両親は少し老けていた。二人とも50代に入ったばかり。定年までもう10年しかないというのに、相変わらず忙しい日々らしい。
 高校生の頃は父は東京へ単身赴任だったし、母も帰りが遅いので、夜ご飯は母が作り置きしてくれたものだったり、自分で作ったものを一人で食べることも多ければ、母の帰宅時間が23時、24時と本格的に遅くなるときは徹の家にお世話になることも多かった。
「萌、明日にでも徹くんと一くんの家に挨拶行きなさいよ。お世話になってたんだから」
「はーい」と返事をし、食卓につく。そこには御馳走が並んでいた。大好物の笹かまぼこの磯辺揚げももれなく並んでいる。
「ウインドオーケストラ東京の入団、そして25歳の誕生日、おめでとう」
「ありがとう。お父さんとお母さんのおかげだよ」
「萌とお酒を飲むの、久しぶりだな」
「そうだね。お父さん単身赴任だったしあんまり会えなかったもんね」

 ビールで乾杯しを、家族への近況報告をする。オーディションのこと、動画投稿に挑戦したいと思っていること。公演のこと。
 そして、仕事のことと同じくらい気になっていたであろう、徹とのことを母から聞かれた。
「えっと、連絡は取り合ってる。うん、明日もその予定。」
「そう……」
 母は何か含みのある返事をする。
「今は目標に向かって頑張っているところだから、今後どうしていくのかは、もう少し先に考えようかな」
「そうだね。今は一人前になることだけを考えなさい」
「ありがとう。明日の公演楽しみにしててね」
 私たちはついついお酒が進む。お互いの近況を語りながら久しぶりの親子水入らずの時間を楽しんだ。
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