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七十二候

第11章 蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)


 その後も、近況を語り合い、昔話に移る。ちょうど岩ちゃんとも話していた話。
「いやー萌があのときあいつの告白を断ってくれて、めっちゃ安心したんだからね」
「そうだったんだね。あのときは過保護すぎるなーって思ってたよ」
「ほんっと萌って鈍感」
「そうかな……徹と岩ちゃん以外の人に鈍感って言われたことないんだけど」
「萌は自分のことには鈍感なんだよ」
「う……バカみたいじゃん」
 鈍感というか、たぶんただバカなんだと思う。というか、徹みたいに試合で仲間も相手のことも、すぐに状況判断ができるように頭脳を働かせることが得意な人には叶わない。
「まぁ、危なっかしいけどそれが萌なんだよな」

 雨がしとしとと降る。梅雨は少し先なのに。優しい雨音は徹の声を包み込んで奏でる。
「……好きだよ」
 思わず、本音が漏れた。徹も同じ気持ちでいてくれたら嬉しいな。バレーが一番大切でも私を二番目にして欲しい。
「えっ? 藪から棒に。俺だって萌が好きだよ。ずっと、ね」

 雨音を愛でながら、徹との時間を楽しんだ。声だけでも幸せを感じるなんて、ずいぶんとプラトニックな関係だ。
 これからはできる限りたくさん話そう。徹の二番目を死守するように。
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