• テキストサイズ

七十二候

第11章 蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)


「絶対できるよ。大丈夫!」
「ありがと。そう言ってもらえて嬉しい。あ、そういえばもうすぐ誕生日だね」
「そうだ。いよいよ25歳か……大人になったな」
「四捨五入するとアラサーだもんね。すっかり大人だよな。で、欲しいものは?」
「えー……」
 私は考えた。でもアルゼンチンからわざわざものを贈ってもらうのもなと思った。
 大学時代からこれまでは、送料を考えて軽いものだったり、贈り合わないこともあった。今も特に欲しいものが見当たらない。
「なんかないの?日本で何が流行ってるのか分からないけど、俺のセンスでアルゼンチンの素敵なものを贈ったる」
「ちょっと心配なんだけど」
「なんだよそれ!」
 たまに徹の写真をメッセージのやりとりの中で見ることがあるが、写真の中で着ていたような変なTシャツなんて貰っても困るばかりだ。徹は海外に出てから服装にも変化があった。住んでいる国に適応しているのだろうか。「SUMESHI」は海外でウケるのだろうか。

 しばらく連絡をしていなくても、私たちの間には徐々にこれまでの感覚が戻ってきていた。私は徹にして欲しいことを考えた。
「じゃあさ、5月30日は仕事で予定が詰まってるんだけど、31日のアルゼンチンだと……11時とか、ビデオチャットしたいんだけどいい?一緒にご飯食べよ?」
「いいね。なんと、俺その日はオフだよ。いつ何時でも行ける! 萌は遅いけどいいの?」
「よかった。大丈夫。わたしも31日の仙台公演後からは翌日までオフなの。じゃー決まりね」
「えっ。仙台公演なんだ! 実家に寄れるじゃん。いいね!」
 実は電話をしながら思いついたことがある。オンラインで徹に演奏しようと。プロになって初めてのソロは徹に聴いてもらおうと。
/ 234ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp