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七十二候

第10章 竹笋生(たけのこしょうず)


 岩ちゃんとのやりとりで思い出した、私が他の男の子とデートに出かけた問題は懐かしく感じるし、ちょっとした黒歴史だった。
 快晴の5月。日焼け止めを塗って私は家を出た。仙台駅で待ち合わせをし、例の男の子とイタリアンでランチをしてからボウリングやカラオケへ出かけた。
「雨宮さん、私服おしゃれだね」
「そうかな。ありがとう」
 一応、持っている中で一番気に入っている服で出かけた。ダンガリーシャツに白のミニスカートだった気がする。髪の毛は動きやすいようにひとつにまとめた。
 デートの最中は部活のこと、クラリネットでプロを目指していること、徹と岩ちゃんとの関係のことを話した。
「よかった。及川は彼氏じゃなかったんだね」
「徹と付き合うのはきっと大変だよ。女の子のファンが多いし、バレーのことしか見てないし」
「じゃあさ、雨宮さん――」


 その日の帰り、何となく一人になりたくて家の近くの公園へ行く。ふらふらとブランコに乗ろうとしたときに後ろから名前を呼ばれた。
「徹……」
 ここは徹の家から見える場所だから、私を見つけて来てくれたのだと察した。
「デートどうだった?」
 徹の表情からして、心配をしてくれているのであろう。
「彼の人となりが分かったし、最初は楽しかったよ」
「そっか」
「それで、告白された」
「えっ!?」
 明らかに固まる徹。自分だって女の子と付き合ってるのに、なんでそんなに驚くんだろう。
「え。どうするの? 付き合うの?」
「キスされそうになって、逃げてきちゃった」
「はぁっ!?」
 徹は大きな声で驚き、顔をこわばらせた。
「あ、大丈夫だったよ。さっき謝りの連絡貰ったし、返事は待って欲しいって返した」

 “男と出かけるって意味分かってる?“
 徹の言葉が脳内で反芻していた。
 私は帰り道に告白されて、そのまま肩を掴まれてキスされそうになったのだ。思わず押しのけて「ごめん。また学校で!」と言って逃げ出してしまった。
「ごめんね。徹が言ってたこと分かったよ」
 徹が長いため息をつく。私も一連の出来事を思い出して、感情の整理をしていた。驚いたというか、怖かったのかもしれない。私の両手が震えていた。
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