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七十二候

第85章 及川編#10


 その後はどんどんと調子を上げた。どんなことでも受け入れられる準備ができている状態は心強かった。あぁ、俺はきっと大丈夫だ。この先独りだとしても、大丈夫。
 ようやく納得のいくプレーでチームに貢献し、サン・フアンはリーグ優勝を果たした。
 長いバレーボール人生で、俺は初めて優勝をした。

 その後はありがたいことに取材に大忙しとなり、萌との約束の期日を気にする余裕はなかった。
「オイカワ選手は後半、調子を上げましたが、優勝の理由は何でしょう?」
「自分の心の強さ、ですかね。終盤はいろんな悩みが吹っ切れて、自分らしくプレーできました」

 カミラからもお祝いの電話が来た。
「トオル、おめでとう! やっぱり貴方は素敵よ」
「はは。ありがとう」
「今度、彼女にも会いたいわ。きっと貴方が好きになるくらいなんだから、うんと素敵なんでしょうね」
「うん。そんな日が来たらいいけど」
 そんな俺の口ぶりにカミラは何かを感じ取ったようだ。
「……彼女とこれからどうなりたいの?」
「日本にいた方がきっと音楽活動はやりやすいし、仲間もたくさんいるから楽しい。だから、俺なんかのことで悩んでいないで、自由に音楽をしてもらいたいなと思ってる。だから、彼女と別れることになる覚悟はできている……」
「そんなの詭弁よ。トオルはこの私の誘いを断るくらいですもの。絶対に彼女と一緒に歩む道しか選んで欲しくないわ」
「それはそう、だね。まぁ、あとは彼女次第だから」
「意外にトオルって弱虫ね。無理やりアルゼンチンまで連れ去って、それから二人でどう生きていくか考えるくらいの強引さがあってもいいと思うけど。それに、彼女だってトオルと別れることは望んでいないでしょう。これだけこの状態が長引いているんだから」
 萌の前では強気になんかなれない。彼女の幸せは一番に願う。だけど自分の幸せも一緒に叶えようとしてもいいのだろうか。それは、これからの萌の答え次第で今後のことを話し合う資格が得られるのだけど。
「さすがだね、カミラ。俺たちはもっと話し合うべきだったんだよね。まぁ……あとは祈ってて」
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