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七十二候

第85章 及川編#10


「萌? おはよう。突然ごめんね」
 早く萌を解放したい。そんな思いから、衝動的に萌に連絡を取った。
「お疲れ様。いいよ。どうしたの?」
「俺のこと、どう思う?」
「……高校の頃から変わらず好きだよ? いつも私は気にかけてくれて、絶対助けてくれて、どんなときも応援してくれたから……。それに、どんなことがあっても自分を信じてバレーの道を突き進んでるところも勇気づけられるし、これからも応援したい」
 最後に、俺への気持ちを確かめる。良かった。まだ、気持ちは変わらないでいてくれるんだな。
「俺も好き。ずっと前から。クラリネットのことしか見えてなくて、無茶していることにも気が付かなくて、本当に危なっかしいけど、好きなことを一生懸命やってる萌は本当に素敵だと思ってるんだ」
「嬉しいんだけどさ、どうしたの急に……」

 萌が身構えている。俺は一呼吸置いて、気持ちの変わらないうちに、決心が鈍らないうちに話し始めた。
「この前、萌が眩しいって言ったじゃん? 本当はかっこつけたかったんだけどさ。今、結果を出すべき大切な時期なのに、上手くいかなくて苦しいんだ」
「うん……辛いね……」
「でも、萌に心配されるのも辛い。萌の重荷になりたくない」
「そんな、重荷だなんて……」
「だから、いろいろ考えたけど、やっぱり別れたいんだ……」

 次はどうか受け入れてくれ。その方がお互いの歩む道には良いんだ。
 だけど萌はまた優しい言葉をかけてくれた。
「私、徹を、かっこいい、尊敬してると一方的に言って、弱音を吐けなくさせちゃったんだよね。苦しめちゃったね……ごめん……」
 俺が弱音を吐けなかったのは萌のせいじゃない。自分のせいだった。
「ううん……俺のことで萌を困らせたくないっていうか……萌はこれからもっと羽ばたく。俺のことで気を遣わせる時間がもったいない」
「え……?」
「もともとね、辛くても別れるつもりだったんだよ。でも、萌が何度も別れないって言ってくれた。俺とのことを一生懸命考えてくれているのを分かったから、待つことにした。だけど、やっぱり萌は日本でプロになるべきだ」
「ま、待って徹……」
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