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七十二候

第84章 及川編#9


 電話を切ったあと、ベートーヴェンについて調べた。
生涯独身を通して、世界的な傑作を生み出した人。音楽家として致命的な極度の難聴という苦難の中でやり遂げた人。「第九」で知られる「交響曲第9番」の4楽章は「苦悩を突き抜けて歓喜にいたれ」という彼の人生観を感じさせる。

「応援の仕方が萌らしいな」
 俺たちも立ち向かおう。逆境がきっとふたりを強くする、ということか。

 突然、前田くんと萌が笑顔で演奏する姿が脳裏に浮かんだ。先日のリサイタルのように、目を合わせて、阿吽の呼吸で演奏する姿を。

「うん。やっぱり、そうだよな」
 彼女から音楽の喜びは奪えない。萌がどう逆境を乗り越えるのか分からないけど、俺とアルゼンチンという壁は取り除いてあげたかった。
 だから、萌に3度目の別れを提案することにした。やや衝動的で、以前から見つけていた答えを確定させようとする俺はどうかしているかもしれない。だけど、このくらい強行しないと、萌はいつまでも悩んでいそうだから。
 そろそろ、俺たちの将来を決めよう。次の山に登るために。登る山はお互い別の山になるかもしれないけど、それは運命として受け入れざるを得ないんだ。
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