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七十二候

第84章 及川編#9


 萌は音楽コンクールで1位になった。国内では最も規模が大きく難易度の高いコンクール。
 ひとつ夢を叶えた萌。プロとなって1年目の快挙だ。すごく嬉しかったけど、俺はそこまで驚かなかった。萌ならやると思っていた。

 以前、萌に約束した「もっといいことがあったらお祝いする」というタイミングは今だと思い、すぐにネットであるネックレスを購入した。
 かねてから、萌にあげたいと思っていたものだ。クローバーモチーフの、幸福や愛情を意味するものだ。値は張るけど、普段萌に何もしてあげられていないのもあり、躊躇なく贈ることにした。
 萌は物凄く驚いていた。声が震えていた。
「徹! こんな高価な贈り物、びっくりなんだけど! よかったの?」
「一応俺プロバレーボーラーだからね。見くびらないでよね」
「もっといいことがあったらお祝いしてなんて言葉、よく覚えてたね……ありがとう……」

 高校生のときに贈った指輪よりももっといいものをあげようとも思ったけど、サイズが分からないのと、結婚指輪でもない限り、クラリネットを吹くときに邪魔になるかなという思いもあった。
「ほんとは指輪とかもいいかな~って思ったんだけど、サイズが分からなかったんだよね」
「そうなんだ。高校から変わってないよ。でもネックレス嬉しいよ」
 そうか。あのときと変わっていないのか。俺は、一応そのことを記憶に刻んだ。
 しかし、また水があいたな。こんなすごいクラリネット奏者の彼氏として、堂々と横に並べるようにならなくては。プレッシャーを感じつつも、腐らずに頑張ろうと思った。

 音楽コンクールから1か月経ったころ、萌から突然「海外」という言葉を聞いた。
「……海外に通用するプレイヤーになるのはまだまだ先だよ」
「えっ海外?」
「こないだ、作曲家の子に言われたの。そういう道もあるじゃんって」
「そっかぁ。海外……萌はどうしたいの?」
 突然、そんなことを意識するようになったのは、音楽コンクールの効果なのだろうか。
「うーん。日本のコンクールで1位とはいえ、海外ってもっとすごいじゃん。海外ってどんなところか分からないんだよなぁー。というか、怖い。徹ってほんとすごいね」
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