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七十二候

第83章 及川編#8


「そうだね。健康に気をつけてくれたから安心したよ。本選、めっちゃ祈ってるから! いい演奏をして会場を驚かせてきてね」
「うん、徹も身体には気を付けて試合頑張ってね」

「もちろん……萌は、音楽好き?」
 どういう風に音楽をやっていきたいのか、誰に音楽を届けていきたいのか、萌にはもっと目の前のことだけではなく、先のことも考えて欲しかった。そりゃ目の前のことで精一杯なんだと思うけど、音楽が好きという気持ちがあるのなら、きっと乗り越えられると信じたい。
「……仕事である以上、好きだけではやっていけないことはあるよ。嫌な人に会うこともあるし、この前なんか、同じ現場で一緒になった人に『才能があっていですね』なんて嫌味まで言われてさ。それでもその人と仕事をしなきゃいけないしね。でも、音楽が好きであることは忘れないようにしたいよね……」
「そっか。そんな失礼な奴がいたんだ。腹立つな」
 どこにでもいる、嫌な人。そんな人のせいで音楽を嫌いにならないで欲しい。でも、萌は敵は自分自身だと思っている人。きっと大丈夫だろう。
「徹も、バレー好き?」
「うん。忘れてしまうくらい辛いこともあるけど、小さな成功とか、ちょっとしたことでバレーが好きだと思い出しちゃうよね」
 俺こそ、「好き」よりも「勝ちたい」が勝ってしまうことがあった。でも、好きという気持ちだけでここまでやって来た。辛い日も多いけど、たまには立ち止まって初心に帰ることは忘れずに行きたい。初心に帰ったところで、しばらくするとまた絶望に打ちひしがれる。人はそんなに強くない。
だけど、また初心に戻ろう。今日の萌との会話で、改めて頑張ろうと思った。
 きっと、音楽コンクール本選の結果次第では萌の名前は海外にも広まる。音楽が好き、という気持ちを持って頑張って欲しい。遠くから、うんと遠くから応援してるから。
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