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七十二候

第83章 及川編#8


 萌と再びビデオチャットで会話ができたのは俺の誕生日祝いをしてもらったときだ。アルゼンチンの季節は冬。7月生まれの俺は未だに自分を夏生まれだと思っているあたり、日本に根付いているのだと思う。
 萌からスマートウォッチをプレゼントされた。最近ロードワーク中に壊してしまったばかりだったから助かった。
 明日がオフではないため、残念ながらお茶での乾杯だったけど、今年も一緒にお祝いしてもらえたことが何よりも嬉しかった。

「あ。こないだ動画サイトでアップされたアルゼンチンとブラジルの試合見たけど、それこそプロって感じだった!」
 萌が俺の試合を観てくれたようだ。
「プロだったって語彙力……というか見てくれてたんだね」
「すぐに伝えればよかったね。ごめんごめん。何年か前にも同じことを言ったけど、日本より格上の国でセッターを任されるってとんでもないことだなと改めて思ったよ。プロの試合の映像の中に徹がいるのって、すごいよなぁ」
「ありがとう。萌から感想を聞くのが怖くて、試合を見せてこなかったけど、萌の感想を聞けてよかった」
 そう、学生時代から活躍していて、難関大学に一発で合格して、100倍を超える吹奏楽団のオーディションにも一発で合格して、コンクールに出場したり、リサイタル開催を持ちかけられるほどプロ初年度から大活躍をする萌を前にして、自分はいったい何をしているのか。萌の前ではあまり自分の成果については話せないでいた。きっと、萌も気にはしてくれていたのだろう。だけど俺から聞き出そうとはしなかった。彼女なりの配慮だ。
 萌にがっかりされたくないという思いがあったけど、萌の言葉に安堵した。
「感想聞くのが怖いっていうのは……」
「うん。意外と思った? 俺、萌のように……」
「海外の人と同等に戦ってるのって、普通に考えて凄いことだから! それだけは自信と誇りを持って! 体格に恵まれている人たちと戦ってるんだよ? そんな人たちに攻撃を組み立ててトスを上げるってとんでもないことなんだからね!?」
 萌に弱音を吐いてしまおうか……と思った矢先に、萌は俺の言葉に被せてきた。
 とにかく、自信を持て、と鼓舞された。
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