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七十二候

第82章 及川編#7


 萌が日本でプロになった先に、俺との未来を見出してくれるのだろうか。それは、萌がアルゼンチンに渡ることを意味する。萌にそんなことをさせるのも申し訳ないと思いつつも、萌を信じるしかなかった。
 正直、悲観的に捉えざるを得なかった。



 時は流れ、萌は2年後、2019年に日本へ帰国した。フランスのコンクールで3位という功績を引っ提げて、4月にウインドオーケストラ東京へ入団した。一度フランスで萌に会ったが、あのときは死に物狂いでクラリネットにのめり込んで、驚くほどやせ細っていた。あれからは萌の体調を心配する日々だった。とっても危なっかしいのは昔から変わらない。
 吹奏楽団の先輩たちはいい人だろうか。萌を陥れる嫌な人はいないだろうか。萌を狙う男たちはいないだろうか。そばにいられない分、たくさん心配だった。
 就職祝いを贈りたかったけど、萌はいらないと言った。
「ありがと! お祝いなんていらないよ。もし、もっといいことがあったら、そのときお祝いしてよ」
「わかった。じゃあとりあえず誕生日プレゼントは楽しみにしてて。じゃあ、練習行ってくるね」
 もっといいことか。コンクールとかリサイタルとか?
 萌がそうったものを遠慮するのは昔からだ。離れている分、たくさん気持ちを届けるためにも、プレゼントくらいしたいのに。萌らしいといえば萌らしいけど。俺は彼女の活躍を楽しみに、引き続き待つことしかできなかった。

 萌が社会人になってからは、余裕がないからだろうけど、連絡頻度が少し落ちた。
 俺も負けずに集中しようと、あまり気にしないようにしていた。俺たちは連絡がだんだんと少なくなっていって、自然消滅するような関係性ではないから。

 ……というのは建前で、俺は岩ちゃんには思いっきり萌のことを相談していた。
「萌が他の男を好きになってたらどうしよう」
「うぜぇ……萌に連絡すればいいだろ」
「だって、萌忙しそうじゃん?」
「俺だって忙しいんだよクソ川。中学生かよ、うんこ野郎」
「岩ちゃんも、悪口のレベルが中学から変わってないよ!」
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