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七十二候

第80章 及川編#5


「私思うの。徹は神様から“お前には試練を多く与えた。この条件で、お前はどこまでできるんだ?“と試されている人なんだよ」
 やけ食いをして、同期と最後のバレーをしてから帰って来た俺に、萌が言った言葉。
「一緒に夢を目指そう」と励ましてくれた。
 プロを漠然と目指すのではない。
全員、倒してやる。

 そうやって生きていくという決意をしてからは、萌のことを大切に想いながらも、お互いが夢に向かって頑張っているという意味で良いライバルとして萌を目標としたし、息抜きをする時間に萌と会ったり話したりすることが、心の支えだった。
 俺の中では自然と海外でプレーすることも視野に入っていたけど、萌はどうしたいのか。そんなことを打ち明けたのは、萌と動物園でデートをした日だ。
「海外は考えたことある?」
「海外? 考えたことなかったな。だって世界をまたにかけて活躍する奏者って、とんでもない化け物だらけだよ。若い頃から活躍するような。私はそこまでの才能はないなぁ」
「自分はここまでだって決めつけるのはまだ早いよ」
「まぁ、そうだね……」
 萌は、日本の人々へ向けて演奏をしていく、そんな未来を描いていた。音楽の世界はとても厳しいのは知っている。海外で活躍することは普通の人では、考えられないらしい。
「俺と萌。ふたりで海外狙えたらかっこいいのにな」
 俺が海外でプレーをする日が来たら……俺と萌はどうなってしまうのだろうか。萌のために俺が夢を諦めることは、萌だって望んでいないに違いない。だから、俺は海外に行くチャンスがあれば絶対に行くだろう。
 だけど、萌はどうするのだろう。
萌が日本を選んだ場合は、きっともう一緒にはいられない。
 付き合い始めて数か月しか経っていないのに、そう遠くない未来では一緒にいられないことを予見してしまった。
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