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七十二候

第80章 及川編#5


 その後、萌の家の前で別れる。俺は萌が玄関に入っていくまで見届けた。
「ちょっと失敗しちゃったけど、いい演奏できたよ!」
 萌の声が聞こえた。萌は胸を張ってそう言った。

 萌の悔しい思いは、俺が雪辱を果たそう。そう心に誓った。


 翌日、萌と岩ちゃんに報告をしたら、「やっとか。バカ」とか「萌に言わせるなうんこ野郎」と悪口ながらも喜んでくれた。
「萌、こいつすっげー長い間片思いだったんだぞ。俺にずっと相談してて……」
「わー、岩ちゃん、恥ずかしいって!」
「え? 全然気がつかなったんだけど……」


 練習や勉強三昧の日々かと思いきや、最高の夏休みとなった高3の夏休みも明け、なぜかすぐにクラスの目ざとい女子にバレた。
「及川、萌ちゃんと付き合ってんの?」
「へ? なんで分かったの?」
「顔に書いてあるじゃん。というか、めっちゃ楽しそうだもん」

 俺たちが付き合っていることはすぐにそこら中に広まった。だけど、好意的に捉えてもらえ、萌も安心したようだ。
 相変わらずバレーの練習を見学にくる女の子たちは絶えなかったが、これからは萌を不安にさせることはしたくないと思った。部活の見学自体は止めないが、女の子と話したり、物をもらうことは辞めた。
 萌は引退をし、受験生となり、俺も最後の大会に向けて気持ちを入れ替えなくてはならない時期だったこともあり、萌への接し方自体はこれまでとあまり変わらなかった。息抜きに家で会ったり、出かけたりすることはあったけど、幼馴染のときとそう変わらない。まぁ、スキンシップはなるべく取っていたけど。

 とにかく、春高を目指して部活を優先させてきた。だけど、俺は白鳥沢と戦う前に烏野高校に敗北した。萌の雪辱を果たすことも叶わなかった。
 負けた経験は、人を強くする。それは間違いない。俺は高校では勝つことはなかったけど、この先をどう生きていくのか、目標が明確になった瞬間だった。
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