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七十二候

第79章 及川編#4


「いつか、プロになれたら海外だって挑戦したい。南十字星が見れる国かもしれないしそうじゃないかもしれないけど」
「海外……」
「俺たちさ、このあとどこにいようとも、星空では繋がってるんだよ。だから、これからもお別れなんて意識しなくていいと思う」
「うん、うん……そうだね……」
 ブランコ監督のように、世界中で活躍したい。そう思うのは俺には自然なことだった。萌だってあれだけクラリネットが上手いんだから、日本だけで演奏するのは勿体ないと思ってしまう。一緒にどこまでも上を目指していけたらいいな。萌がいるなら、心強いのに。

「吹奏楽コンクールは萌の夢の通過点。もちろん高校としての思い出になるし、それも大切にすべきだと思うけど、そこまで悲観しないで」
「ありがとう。もっと先のことを考えて演奏する」
「いや、真面目か」

 今すぐにでも気持ちを伝えたかった。だけど、やっぱり気持ちを伝えるのは怖かった。萌は俺のことをただの幼馴染としか思っていないから。俺が好きだと言ってしまったら、きっと元の関係に戻れなくなる。
 大抵のことで怖気づいたりしないのに、萌の前では尻込みする。
 だけど、言わなきゃ。このまま高校生活を終わらせたら後悔するし、先に進めない。
 萌の東北大会が終わったら告白しよう。俺はなけなしの勇気を振り絞ろうとした。


 その後、萌は少しずつ調子を取り戻したようだった。東北大会前日、会場の秋田県へ向かう吹奏楽部たちを見送る。俺と岩ちゃんは萌の背中に思いっきり闘魂を注いだ。きっと上手くいく。あれだけすごい演奏ができるんだから。俺はその日も翌日も、ずっとそわそわしていた。
「おい及川。気持ちは分かるけど、練習だ」
「分かってるよ岩ちゃん……」
 しきりに吹奏楽部の到着を確認するために、グラウンドを見ていたところを、岩ちゃんに注意された。

 そして間もなくして吹奏楽部が戻ってきた。部員たちの表情は暗かった。
 それで察してしまった。
「岩ちゃん」
「俺も行く」
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