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七十二候

第79章 及川編#4


 プロを目指す以上、高校での部活は思い出だけにしてはいけない。俺たちの目標はその先にあることを分かって欲しかった。だから、萌の心を休ませたかった。
「だからさ、萌。明日は部活ないでしょ? 午後から時間空けて」
 俺は萌を外に連れ出すことを決意した。明日はちょうど午後からフリーなのだ。どこに行こうか迷ったけど、あまり高校生の人目につかない場所が萌には良いと思い、天文台を選んだ。

 小学生だらけの館内に高校生は逆に目立ったけど、萌とのデートはめちゃくちゃ緊張していた。
「スケールすごいなー」
「ほんと、私たちの存在って塵以下だね……」
 萌のややネガティブな物言い。こういうときは自分を思いっきり卑下する。
「塵って言い方……まぁ萌らしいけど、ほんとだね。どんな大きな悩みでも宇宙の前では、無だな」

 萌は南半球での星の見え方が印象的だったようだ。
「南半球って、オリオン座が逆なんだね。なんだか不思議だね」
「うん、季節も逆。地球にそんな場所があるんだなって思った」
 地学の授業でそんなことを習ったけど、忘れていた。
「……南十字星、いつか見てみたいな」
「おやおや、ロマンチックだね」
 いつか、一緒に南半球で星が見られたらいいのに、と俺は萌の顔を見ながら考えていた。萌とこれからも一緒にいられたらいいのに。これからも努力してきっと萌はプロになる。そんな萌に恥じないように、俺も頑張らないといけないんだ。もちろん高校でも勝ちたいけど、その先でも勝ち続けられるような選手になりたい。

 その後、俺の家で一緒に過ごした。俺の尊敬するブランコ監督が指導しているバレーチームの試合を一緒に見た。そこで俺は萌に宣言した。
「……俺さ、ちょっと迷ってたんだけど、プロを目指す。まだまだ足りないことがたくさんあるし、絶対これからももっと上手くなってさ。……んで、いろんなやつを倒す。萌みたいにお客さんを喜ばせたい、みたいな世のため人のためになるような崇高な目的じゃないんだけどね」
「いいじゃん。動機なんてそんなもんだよ」
 萌は驚かなかった。俺がプロを目指しているのは知っていたようだ。
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