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七十二候

第77章 及川編#2


 その後、インハイ予選があった。飛雄のことはボコボコにしてやったけど、決勝で白鳥沢に負けたところだった。
 たまたま萌と帰り道が一緒になり、部活の悩み事を話してくれた。萌とはずっと気まずかったけど、相談してくれたことは嬉しかった。
「私、告白の件断ったよ。やっぱり今は部活も進路も頑張りたいし」
「そっか」
 安心した。俺が安心する資格は全くないというのに。本当に俺はずるい。自分への戒めのためにも、萌を応援する立場でいようと、思ってもいないことを言ってしまった。
「次はちゃんと好きな人、できるといいね」
「う、うん。そうなると素敵だね」

 思ってもいないことなので、やはり萌を諦めることは無理だった。
 彼女と電話をしていたときにデートに誘われた。その日は吹奏楽部の定期演奏会がある日。俺はそれを断って、萌の演奏を岩ちゃんと聴きに行くことにした。幼馴染の雄姿を応援しないわけにはいかなかった。

「俺、その日幼馴染の演奏会だから、デートできないや、ごめんね」
「……徹くん。本当はその子のこと好きなんでしょう?」
「えっ」
 彼女はお見通しだった。面食らってしまった。
「分かるよ。徹くん、いつも2人の幼馴染の話かバレーの話しかしないもん。私のこと、ちっとも知ろうとしなかった」
「……ごめん」
「いいよ。徹くんと付き合ってみたかっただけだし。まぁ、思ってたのと違ったけど、徹くんのことを知れてよかった」
「ほんと、悪いことした……」
 突然罪悪感が頭を支配する。この子はとても気丈に振る舞ってくれていた。
「周りの子たちに及川徹は面白くなかったって言いふらしてやるんだから!」
「はは……そうだね」
 約2か月。スピード破局だった。彼女には本当に申し訳ないことをした。


「俺彼女に振られた」
 翌日、幼馴染のふたりに報告したら、岩ちゃんには思いっきり笑われた。
「俺の何がいけなかったんだ……」
「そりゃーバレーばっかりやってたからだろ。もしくはそのツラで振られるなら性格に問題があるんだな」
「そうだろうね。間違いない」
「萌まで追い打ち……」
 何がいけないって、そりゃ俺だというのは、分かっていた。言い訳する余地はない。
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