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七十二候

第77章 及川編#2


 萌は超のつく鈍感だけど、それなりにモテるんだと思う。以前、別のクラスの男同士の会話を盗み聞きしたことがある。「雨宮 萌って可愛いよな」と。
 だからというのもあり、俺は萌のことを好きだという態度は隠さなかった。それが他の男への抑止力になっていた。自惚れだけど、俺よりイケメンな奴がこの学校にはいないと思っていたから。
 萌のこと好きだという態度は完全に一人芝居だった。
 萌のデートの日、俺は朝から夕方まで部活だった。この日は居残り練習をすることなくまっすぐ帰宅した。いつでも萌の元に駆けつけられるように。その努力の甲斐あり、萌が帰宅する様子を家の外から見つけることができた。我ながら、ストーカーみたいだ。でも、そのくらい萌のことが心配だった。萌はまっすぐ家に帰らずに、ひとりで公園へ向かっていた。
 きっと、何かあったんだ。
 そして萌の服装を見て、少し腹が立った。ミニスカートで男に会ったことに嫉妬した。そんな服を着ている萌を俺は見たことがなかった。制服よりも短いスカートでオシャレして、それがどういうことをもたらすのか、萌はきっと分かっていない。

 俺は公園へ迷わず向かい、萌に話しかけた。
萌は少し気まずそうにしていた。
「告白された」
「え。どうするの? 付き合うの?」
「キスされそうになって、逃げてきちゃった」
「はぁっ!?」

 つい大きな声で驚いてしまった。近所中に聞こえたかもしれない。
「あ、大丈夫だったよ。さっき謝りの連絡貰ったし、返事は待って欲しいって返した」
 あぁ、あの男はそういう奴だったか……。萌の手が震えている。怖かっただろうな。
「ごめんね。徹が言ってたこと分かったよ」
「ううん。無事ならいいんだけどさ」
「どうするかちょっと考える」
「うん、そうだね……」
 萌を今すぐにでも抱きしめたかった。だけど、そんなことをする資格はない。萌を困らせた奴のことは許せないし、一言言ってやろうと思っていた。だけど、そんなことをしたら萌は嫌がるだろう。
 ぶつけようのない怒り。全て身から出た錆だった。
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