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七十二候

第77章 及川編#2


「……お疲れ。どうしたの? 岩ちゃんは?」
「岩ちゃんは置いてきた。マッキーたちに片付けは任せた」
「そっか。えっと……一緒に帰る?」
「うん」

 萌に単刀直入に聞いた。やはり、あれはデートのお誘いだった。
「え? 好きなの? 本気?」
「知らない人だけど。一緒に出かけてみて見えてくる部分もあるかなーって」
 やっぱり好きでもない男だったんだ。萌は彼氏が作りたかったということなのか。
「そうかもしれないけど……男と出かけるって意味分かってる?」
 つい、言ってしまった。男は少なからずそういうものだと俺は思っているから。もしかしたら、萌が危ない目に会う可能性だってあった。
「徹だって彼女と出かけてるんでしょ? それと同じだよ。私だって青春を謳歌したいんだよ。ほっといて」
「いいや、萌は分かってないね!」
「なんでよ!?」

 萌とここまで言い合いになるのは過去の記憶にない。だけど、萌は今、俺を見上げて睨んでいた。そこまで怒る理由は何なのか。
「萌はお子様だからね」
 萌は男のことをろくに知らないから。心配しているから。素直にそう言えなかった。
「私だって高校生らしいことしたいの。もうほっといてよ」
「でも――」
「何で徹は女の子と付き合って良くて、私はダメなの?」
 図星だ。俺は、萌にどうして欲しかったんだろう。俺は女の子と付き合って、萌が彼氏を作ってはいけないなんてことはないのに。
「じゃあまた明日ね」萌はそう言ってさっさと家に入ってしまった。

「……カッコ悪」
 萌に告白できなかった報いだった。萌が一番仲のいい人は俺だ、萌のことを一番理解しているのは俺だと自負していた。萌は、きっとそんな風に考えてはいなくて、俺のことを特別だとは思っていなくて、普通に彼氏を作りたい、普通の女の子だった。

 しばらく落ち込んだように過ごしたけど、萌のデートについてはずっと気になっていた。どうやら今週末にデートするらしい。萌をデートに誘った男が楽しそうに廊下を歩いていたのを見た。全然面白くなかった。
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