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七十二候

第76章 及川編#1


 今年こそ、萌に告白しよう。好きだと言おう。
 そう、新学期の春に誓ったのだった。

 
「及川、萌ちゃんのこと、好きでしょ?」
 牛乳パンを吹き出しそうになった。授業が終わって、部活前の腹ごしらえに食べていた大好物。
 クラスの女の子が俺の気持ちをズバリ言い当てたのだ。俺が授業中にも休み時間にも、萌をチラ見していたり、積極的に萌に話しかけていたことは女の子にはお見通しだった。
「わ、分かる? そうなんだよね。昔から……」
「でも、萌ちゃん全然気がついてないよ? ウケるね」
 萌はとっくに部活に向かっていて、教室にはいなかった。
「萌の頭の中はクラリネットしかないから。こんなに分かりやすい態度で接しても気がつかれない俺はどうしたらいいんだ」
 そんな恋バナをしているうちに他の女子だちも集まってきた。
「及川のこと、かけらも気にしてなさそうだよね」と遠慮のない女の子たち。聞きたくない現実を思い知らされる。
「もう少し頑張ってみる。ダメなら萌への想いは断ち切らねば」
「頑張れ~。面白いから見てるね」
「ちょっと! 応援してよ!」
 女子たちに囲まれて談笑していた姿を、隣のクラスの岩ちゃんに見つかった。
「おい。部活だ」
 バチンっ!と殴られて、首根っこを掴まれて俺は岩ちゃんに体育館に連れていかれた。
「おいクソ川、何いつまでも女子と楽しそうにしてんだ」
「僻み? みっともないぞ、岩ちゃん!」
 そう言うと、もう一発殴られた。
「酷い……」
 恋の悩み相談をしていただけなのに。岩ちゃんだって、俺が萌のことを好きなのは小学生の頃から知っているのに。



 4月の終わり頃、萌から話しかけてくれたことがあった。
「徹。今日放課後暇?」
「あ、うん。大丈夫」
 驚いた。萌が話しかけてくれるなんて。すごく嬉しいけど、俺今絶対変な顔していたよな……。
「なぁに? その驚いた顔」
「え……だってクラスで萌が話しかけるってあんまりないじゃん。だから嬉しいなーって」
 俺の素直な気持ちに、萌が戸惑っていた。そういう姿も可愛い。
「えと……じゃあ、私の先生も出演するアンサンブルコンサート、チケット2枚あるの。付き合ってよ」
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