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七十二候

第76章 及川編#1


 高3で萌と同じクラスになったのは中1以来のこと。高3の新学期、バス停に向かう途中にある萌の家の前を岩ちゃんと通ると、偶然萌が家から出てきた。ラッキーだった。
「萌。おはよ。朝に会うの久しぶりだね」
 俺は平然を装って挨拶をする。
「おはよ。朝練ないんだね」
「今日は新学期だしね。朝練は明日から」
 萌とは学校では滅多に話さなかった。中学のときに、俺と仲がいいことで女の子たちに嫉妬されたり、嫌なことを言われたせいで、それまで笑顔が多かった萌の表情に影を落としたから。萌からは、学校では極力目立たないように、話すときはお互いの家など目立たないところでしたいと言われた。
 萌には辛い思いをさせてしまった。その件で、俺は女の子たちに釘を刺した。「バレーの応援は歓迎するけど、その他の行為はやめて欲しいと」伝えた。
「萌は俺の幼馴染だから。誰よりも仲のいい子だから、酷いことはしないで」と。
 以降も、自分で言うのもおかしいけど、良い顔で産んでくれた親に感謝するほどに、学生時代はモテまくったけど、萌とはそんなこともあり距離が遠くなったせいで、萌に近づくことができなかった。
 俺は、小学5年生のことからずっと萌のことが好きだったのに。

 萌には俺の想いは全く通じなかった。言葉にするのは恥ずかしいし、もし「好きだ」と告白して失敗したら、幼馴染の関係にひびが入ることを恐れて告白は避けてきたけど、明らかに萌のことが好きだという態度は十分にとってきたつもりだった。萌の顔、動作、表情など、たくさん見てきたし、たくさん褒めたりもした。学校帰りに偶然を装った待ち伏せたこともあった。
 萌は鈍感だ。正確に言うと、自分事には鈍感だった。
 そんな萌と同じクラスになったことを、高3の新学期にクラス替えの張り紙を見て確認した。神様、ありがとう!と心の中でガッツポーズをした。
「3年生なんだしたくさん思い出作ろう!」
 萌にそう話しかけた。萌は不安そうな顔をしていた。きっと、女の子たちの目線を気にしていたのだろう。でも大丈夫。俺が絶対守るから。
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