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七十二候

第75章 及川編#0


 雨宮 萌は俺の幼馴染の女の子。幼稚園から一緒で、家も近所で小さい頃からずっと一緒だった。俺とは正反対で落ち着いていて、控えめだけど芯のある女の子。そして、小さな頃から音楽が大好きだった。
 長い間ひとり片思いをしていた。だけど、高3のときに想いが通じ合って、付き合うことになった。一時期少し距離の開いた時期もあったけど、高3で同じクラスになって距離が近づき、恋人になって、本当に幸せな日々だった。
 そんな萌が当たり前にいる生活が一変したのは、俺がきっかけだった。
 アルゼンチン。俺はバレーボールの夢を追い求めて、アルゼンチンの監督へ師事を乞い、アルゼンチンでプレーする道へ進んだ。
 萌のことはずっと好きだ。だけど、バレーは俺が人生をかけてやり遂げなくてはならないことだった。俺はたくさん悩んだ上で、萌を置いてひとりアルゼンチンへ渡った。
 アルゼンチンへ行くことを打ち明けたときに、別れを提案した。いつ日本に帰るのかも分からない男では萌を幸せにできないと思ったからだ。だけど、萌は拒否した。離れても、俺と一緒にいてくれると言ってくれた。
 そんな萌の優しさに甘えることとなった。
 月日は流れ、CAサン・フアンでプレーをしていくうちに、アルゼンチンに帰化することが自然な選択肢となった。
俺の目標は、日本の奴らを全員倒すこと。日本にいては、全員を倒すことが出来ないと思っていたからだ。
 1番になりたい。勝ちたい。そんなつまらないプライドを大切にしてきた。オリンピックに出て、全員を倒す。それが、俺がアルゼンチンへ行き見つけた答えだ。
 いよいよ、俺と離れないでいてくれた萌とも別れなくてはならない。そう思ったから、俺は家族に帰化を認めてもらったあとに萌に帰化することを報告した。
 萌は、それでも別れないと言った。応援すると言った。
「徹が他に好きな人ができるまでは別れないで欲しい……アルゼンチンの地で徹を献身的に支える素敵な人が現れたら、さすがに敵わないから……」
 胸が苦しくなった。こんなに自分勝手な俺をまだ好きでいてくれる。一緒にいてくれるなんて。
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