第74章 七十二候
オーケストラに所属することも考えたが、オーケストラが主に演奏活動をするであろうブエノスアイレスなどの都市との距離を考えると、なかなか踏ん切りがつかなかった。今は日本を中心に活動しつつ、徐々にサンフアンでクラリネットの演奏活動を広めていこうと考えていた。タンゴも演奏したいし、ポップスもジャズも挑戦したい。私は雑食だ。ジャンル問わずに音楽を楽しむようになった。これも、アルゼンチンに行くことを考えなければ、アルゼンチンに行かなければ、変化することはなかったと思う。
それでも、今は徹のオリンピックのアルゼンチン代表入りを一緒に夢を見ることが先決だ。そのために、私は何があっても徹のそばにいたいし、健康の管理もしっかりしたい。
徹も、私の音楽をサポートしてくれると言った。これからは自分だけで全てをこなさなくてもいい。隣に頼れる人がいることの心強さ。連絡はどこにいたって取れるけど、傍にいてくれることは何よりも私を強くしてくれた。
これから、日本とは季節は逆に流れる。それでも、ここにも四季がある。
私たちはこれからもずっと、死ぬまで一緒にたくさんの季節を過ごす。
そんな生活の毎日。平凡な日々を大切な思い出にしたい。死ぬときに「いい人生だった」と言いたいし、そんな思い出を天国に持っていけるように、『七十二候』ひとつひとつ、72の季節を曲にしてみようかな。
私は新しい夢を見つけた。
徹は何て言うのかな。
これから私のライフワークとなる七十二候の作曲は、徹との日々が元になっているんだから、最高の人生を歩もう。
美味しそうにご飯を食べてくれている徹を見て、そう言おうと思った。
~end~