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七十二候

第7章 牡丹華(ぼたんはなさく)


 いつもと同じようにクラリネットを吹く。今日のまゆとの合わせで取り組んでいた曲を完成させよう。そして動画サイトにチャンネルを作ってアップロードさせるんだと意気込んでいた。
 私の購入した譜面は実際に吹いてみるとやはり良いアレンジだな、と気づかされる。編曲者はAKIと書いてあった。いったいどんな人なのだろう。

 そして、休憩中のこと。
「私、実は結婚することになったの」
「え!? おめでとー! 例の彼?」
 まゆに以前から付き合っている彼氏と結婚すると報告を貰った。3歳年上の大手の会社員の男性だ。驚いたけど、もちろん喜ばしいことだ。素直におめでとう!と、祝福した。

 まゆは彼女の先生から言われた言葉を忠実に守っている。まゆは以前から言っていた。「音楽のプロは食べていけない。だから早く稼いでくれる男の人と結婚して、生活の土台を安定させてから音楽活動しなさい」と先生が言っていたと。
 それは間違いとは言えない。だから否定はしない。でもなぜか襲ってくる孤独や焦りがあった。
 いつも一緒にいてくれた幼馴染のふたりも孤独を感じているのだろうか。
 今日あったことを時間を気にせずに気軽に話せない。感じたことをその場で共有することができない。そんなの当たり前じゃんと思っていても、やっぱりやりきれない気持ちはある。そしてそんな風に思ってしまう自分が嫌になる。

 でも、これも自分で選択した道。徹も岩ちゃんもひとり外国の地で戦っているんだ。今日も必死で生きているんだ。だからどうかこの演奏が届きますように。私はそう強く願いながら、演奏した。まゆも、そんな私の気持ちに応えてくれた。
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