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七十二候

第66章 霞始靆(かすみはじめてたなびく)


 私は進むべき道をようやく決断できた。そして自ずと曲も完成に近づいていった。あとは微調整をするだけだ。
 しばらく自宅でパソコンとにらめっこをしていたため、目が疲れているなと感じていた。目の疲れに良い栄養は何だろう?こんなことを自然と考えられるようになったのは、徹のおかげだ。

再び同じクラスになった高3の春。徹と再び近づきつつも、しばらくは複雑な関係だった。徹の行動一つ一つが釈然としなかった。だけど、私のことを一生懸命想ってくれていることに気がついて、徹のことを知りたいと思った。
 夏もやっぱり変わらずに傍にいてくれた。挫折したときに私を救ってくれた。そして私にとってそんな徹がかけがえのない大切な存在であることに気が付いた。
 秋は徹が幼馴染から彼氏になって、それまでの関係が一変して、すごく戸惑ったけど、楽しくて。徹はバレーボールの夢破れ、重大な将来の選択を強いられていた。
 冬は徹の決意を聞いて、別れを切り出されたけど、それでもお互いがまだ必要がと再確認できた。
 それから、私たちは夢に向かって歩き出した。今も、まだ夢の途中。徹はずっと私の答えを待っていた。
 あの時の季節も感じたことも、今も覚えている。悲喜こもごも。とても複雑で、四季の自然が綺麗だけでは表現し切れない青さも苦さも幸福もあった。

 そろそろ室内楽の練習があるから家を出なくては。これも、音楽コンクールの効果で得られた仕事だった。ピアノ、ヴァイオリン、チェロといった違う楽器の人たちと演奏をするのは、とても楽しみだった。

 慌てて家を出た瞬間に岩ちゃんから電話が入った。
「岩ちゃん! 近々電話しようと思ってたんだよ」
「今外だろ? 大丈夫か?」
「うん、駅までなら大丈夫だよ」
「そっか。ごめんな。及川から聞いたぞー。それで心配になって」
「そ、そうか……。私3回振られたんだけど。すごくない?」
「あれ? 思いの外元気そうだな」
「慰めようとしてくれてた? ありがとう、大丈夫。シーズンが終わる頃までに、これからどうするか決めるよ。と言うか、もう決めた」
 私は自分でも意外なほど冷静に答えた。
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