第62章 東風解凍(はるかぜこおりをとく)
「そっか。うん、本音が聞けてよかった……。私は、徹に肩を並べるくらいに胸を張れるプロになりたい。そしてずっと傍にいたい。これは今も揺るがないよ。本当に待たせてごめんね。だから……」
「――だから、しばらく連絡とるのをやめる」
「萌……」
「徹のシーズンが終わるまで。いいかな? それまでに私、答えを出すよ」
私はこれまで蟻の歩みのようにいつまでも時間をかけても決めかねていたことを瞬時に決意した。
強がった。泣くのも我慢して、かっこつけてしまった。
電話を切って、一人になり、大粒の涙をこぼして泣いた。自分の不甲斐なさに。情けなさに。
100倍の倍率を超えたオーディションに受かったのも、音楽コンクールで1位をとったのも、奇跡だった。奇跡と言える自分のキャリアを捨てるのは怖かった。ちっぽけすぎるプライドを、今この状況でも捨てられると即答ができなかった。