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七十二候

第62章 東風解凍(はるかぜこおりをとく)


 2月になった。立春ということが信じられないくらい、毎日凍えそうだ。春はまだかと待ち焦がれる反面、春には曲作りで一区切りさせることを決めていたので、春がまだ来ないで欲しいというせめぎ合いをしていた。
 あれから、私は徹にたくさんコミュニケーションを取ろうとした。とはいえ、あまりしつこくても嫌がられるだろうし、言いたくないことは聞かないようにしようと、仕事のことには触れずに、今日あったこと、見たもの、聞いたものの共有に努めた。
 思えは、中学、高校のときもそうだ。徹は弱さを見せない。その辺は岩ちゃんたちチームメイトが徹を助けてきたのだろう。きっと、私には分からない男の世界がある。プライドを持って、人生かけてバレーをしている徹だから、私に見せたくない部分もあるのだろう。
 なのに、本心を探りたい思いで、大丈夫?と直球で聞いてしまったとことは反省した。
 
 ある日の朝、自宅で作曲の作業を進めていたときに徹から電話があった。ちょっと嫌な予感がした。アポもなく電話をかけてきたからだ。
 深呼吸をして応答ボタンを押す。

「萌?おはよう。突然ごめんね」
「お疲れ様。いいよ。どうしたの?」
 私は努めて明るく振る舞った。嫌な予感を払拭するように。
「俺のこと、どう思う?」
 徹も直球だった。どういう意味で聞いているんだろう。
「……高校の頃から変わらず好きだよ? いつも私は気にかけてくれて、絶対助けてくれて、どんなときも応援してくれたから……。それに、どんなことがあっても自分を信じてバレーの道を突き進んでるところも勇気づけられるし、これからも応援したい」
「俺も好き。ずっと前から。クラリネットのことしか見えてなくて、無茶していることにも気が付かなくて、本当に危なっかしいけど、好きなことを一生懸命やってる萌は本当に素敵だと思ってるんだ」
「嬉しいんだけどさ、どうしたの急に……」
 何で改めてそんなことを言うの?心臓が早鐘のように打つ。

「この前、萌が眩しいって言ったじゃん? 本当はかっこつけたかったんだけどさ。今、結果を出すべき大切な時期なのに、上手くいかなくて苦しいんだ」
「うん……辛いね……」
「でも、萌に心配されるのも辛い。萌の重荷になりたくない」
「そんな、重荷だなんて……」
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