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七十二候

第57章 水泉動(しみずあたたかをふくむ)


 幸せの定義って何だろう。休日に好きな人と出かけて、美味しいものをだ食べて、喜びや悲しみを当たり前のように共有できること……?好きな人との間に子どもを授かること?
 音楽を追い求めるばかりで、そういった幸せは自分には縁がないのかもしれない。
「そのネックレスや指輪は彼氏からだよね?」
「うん。ずっと会えてないんだけど、大切な人だよ」
「そっか。僕は萌ちゃんには幸せになって欲しいよ」
「うん……前田くんもね」

 公園から池袋駅まで前田くんと一緒に歩く。人混みで歩きにくかったけど、前田くんは私の歩幅にあわせてゆっくり、ゆっくり歩いてくれた。
「今日はありがとうね」
「いえいえ」
 私たちは改札前で挨拶をする。
「……萌ちゃんのネックレスを見る顔がすごく優しかった。いつか、萌ちゃんもアルゼンチンに行っちゃうのかな」
「……え?」
「これからも萌ちゃんの伴奏者でいさせてね。もっといい演奏してみせるよ」
「……うん……」
「日本に残るなら、是非僕を選んで」
「ん?」

「ううん。伴奏の話ね。じゃあ、また受賞者演奏会の練習でね」

 ぽかんとしながら前田くんの背中を見送った。その言葉をどう受け取ればいいのか分からなかった。
 前田くんと演奏するのは楽しい。これからも一緒に演奏してくれると言ってくれたのは本当に嬉しかった。
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