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七十二候

第56章 芹乃栄(せりすなわちさかう)


 翌日、岩ちゃんと地元の神社に初詣に出かけた。宮城の寒さを久しぶりに体感し、あとで甘酒を飲もうかななんて話をしながら長蛇の列を並んでいた。
「岩ちゃん、アメリカはどう?」
「うん、英語は結構喋れるようになった。向こうの大学のアスレティックトレーナーを目指そうと思ってる」
「アメリカにそのまま住むんだね。すごいな……」
「おう。その先の目標はオリンピックのバレー日本代表のアスレティックトレーナーだ」
「すっごい! 岩ちゃんは日本、徹はきっとアルゼンチンで戦うことになるかもね」
「そのときは絶対勝つ」
 岩ちゃんの夢。徹と対峙することを楽しみにしているんだな。小学生からの最高の相棒という関係は、住む場所は離れていても今もそのままだった。
(徹も、岩ちゃんも夢に向かって頑張っています。二人のことを応援してください)
 私は神様にそうお願いした。

 お参りをし、甘酒を飲む。冷え切った身体に温かい甘酒が染み渡る。甘酒が食道を通っていくのを感じた。
「ねぇ、高校見に行きたい」
 私は岩ちゃんに提案した。宮城の街を歩いて、音楽のインスピレーションを貰おうと思っていた。特別じゃなくていい。身近なところにこそ芽生える感情がある。
 よく徹と会っていた公園や通学路、寄り道したカフェ。今も変わらずここにあった。
 青葉城西高校も当時のまま。当然門は閉まっていて中には入れなかったが、私たちは外から教室や体育館、音楽室を眺めていた。大人になった私たちは、もうあの3年間を過ごした青い空間に行くことはできないけど、学校を眺めるだけで当時高校生だった自分たちを思い出す。
「懐かしいねぇ。あのときはいつも3人一緒だったのに、今はバラバラ。みんな夢に向かって頑張ってるんだもの。あのときの私たちに今の私たちがどうなっているかなんて想像できなかったよね」
「特に及川な。すげえよあいつ」
「うん。ほんと。でも岩ちゃんだってすごいよ」
「海外に行くことは、及川の影響もあったんだけどな。そういえば明日から春高だな。今だって悔しい気持ちは忘れてない」
「そうだね。今年も宮城の代表は烏野高校だね。私たちが3年生のときにいきなり強くなって。すごいね」
「悔しいけど、あのとき負けたから今進んでいる道があるんだと思うと、負けた経験も必要な経験なんだよな」
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