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七十二候

第55章 雪下出麦(ゆきわたりてむぎのびる)


 新年。2020年になった。私は公演後、実家へ戻り両親に新年の抱負と共に挨拶をする。
「あけましておめでとうございます。今年も音楽にまい進して、たくさんの人を喜ばせる人になりたいな」
「身体に気を付けて頑張りましょうね」
 両親とのんびりとお正月を過ごした。久しぶりの実家の居心地の良さを改めて感じる。ご飯が自動的に出てくることのありがたさ。手作りのおせち料理。私がいなくても手入れを怠らない部屋や庭。両親は毎日丁寧に生きているんだなと感じた。

 徹にも新年の挨拶をする。向こうはまだおおみそか中だ。
「今年もお世話になりました。たくさん支えてくれてありがとう。来年も一緒に頑張ろうね」
 私はお正月の特番を見ながらメッセージを送った。きっと今頃チームメイトと過ごしているんだろうな。

 その後、岩ちゃんから「青城の同期と一緒だからおいでよ」と連絡をもらい、夜は仙台駅前の居酒屋へ向かった。
「おー! プロクラリネット奏者!」
 岩ちゃんがお座敷から手招きしてくれた。
「あけましておめでとう! 久しぶりだね!」
「萌ちゃん覚えてる?」
「松川くんと花巻くんでしょ。もちろん覚えてるよ」
 みんな顔つきが大人っぽくなっていた。岩ちゃんは徹のように身体がひと回りもふた周りも大きく逞しくなっていた。アメリカでも頑張っているんだな。
「何を飲む?」と岩ちゃんに聞かれ、私はビールを注文する。それから、みんなの近況を話し合った。
「及川に写真送ろうぜ」と花巻くんが自撮りする。みんなでピースサインをして写真を撮った。徹は朝一で羨ましい光景を目の当たりにするだろう。

「萌ちゃん、及川とはどうなの?」
 松川くんがニヤニヤして聞いてきた。
「遠距離今年で8年目。進展はなしです」と即座に回答した。絶対聞かれると思った。
「萌ちゃんを放置できる及川も及川だよな」
「いやー、でも私も私で今に精いっぱいで。むしろ、徹を待たせているのは私なんだよね。それと、最近は徹はバレーのことは何も言わなくて心配ではある」
「男は弱さを見せたくないんだよ」
 岩ちゃんが言った。二の腕がパンパンに鍛えられているのが服の上からでも分かった。
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