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七十二候

第54章 麋角解(おおしかのつのおつる)


 スーパーでゆずが売っていたので、冬至は過ぎたけどゆず湯に入ってみる。浴室に広がるゆずの香りに癒されていた。
 徹との別れ話は過去に2回ある。1回目はアルゼンチンに行く決意を聞いたとき。2回目は帰化する決意を聞いたときだ。私は徹の人生の転換期に2回振られていた。でも2回とも駄々をこねたのだ。
 きっと、これからも大丈夫。そう自分に言い聞かせた。そんなことを考えていたために長湯をしてのぼせそうになった。

 徹のアルゼンチンでのクリスマスは、チームメイトのご実家へお邪魔したそうだ。30度超えの真夏の気候の中でも、クリスマスツリーを飾っているらしく、日本とあまり変わらないのかなと思った。クリスマスもアサードなどの肉料理を食べたとそうだ。南半球ではクリスマスは夏なのが当たり前。北半球にしかいたことのない私の狭い価値観では、やはりクリスマスは寒いほうがイメージに合っていると思ってしまう。
 アルゼンチンへ行くことを決心した18歳の徹の勇気と大胆さを改めて感じた。きっと、あのときはどんな国か、すべてを理解することなく飛び出していったのだろうから。

 私はクリスマスは一人で過ごした。一人には慣れていたので全然問題なかった。朝起きて、仕事をして帰って寝るといった、特段毎日と代わり映えのないクリスマス。だけど30日と31日は吹奏楽団の公演なので、一人で過ごさなくて済むと思うと少し安心した。やっぱりどこか寂しいのかもしれない。公演が終わったら宮城に帰省しよう。高校の友達や同じく帰省するという岩ちゃんに会いに行こう。

 いかんいかん、いよいよのぼせる。私はお風呂から上がり、ふらふらとそのまま水を飲みに行った。

 私は年末年始を楽しみに、年末までまさに走るように乗り切った。
 年内最後のコンサート終演後に楽団のメンバーと忘年会をし、2次会でカラオケをした。新人ということで、トップバッターを任せられた。とりあえず誰もが知っていそうな、某アイドルグループの曲を歌ってみた。
「え、雨宮さん歌うますぎる!」「これはコンサートで歌ってもいいかも!」
 お褒めの言葉をいただく。コンサートで取り上げられるなら歌ではなく本職のクラリネットのほうが嬉しいのだけど、素直に喜ぶことにした。その後はたくさんの歌を歌わされた。
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