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七十二候

第53章 乃東生(なつかれくさしょうず)


「先のことなんか、私にも分からないよ。私だって留年するかもしれないし、院に行くかもしれないし、はたまた留学だってするかもしれない。未来なんてどうなってるか分からないよ。物理的に会いにくくなるのはもう決まっていたことだよ。それよりも、徹は………徹は…私の一番の理解者で、尊敬する人で、支えてくれる人で……。一番大好きな人が物理的なんかよりも、精神的にもいなくなることの方が一番キツイ………」
 お互い涙でぐちゃぐちゃになった顔。それでも私は徹の手を握ったまま離さない。
「私だって徹の支えになりたいんだよ。頼りないけど………」

「………こんな俺なのにまだ恋人でいてくれるの?」
「当たり前じゃん! バカ!」
 そう言って私は徹を離さないと言わんばかりに抱きしめた。
「はは………絶対泣かしちゃうなとは思ってはいたけど、逆に泣かされるとは」
 そう言って徹は私の両肩を掴んで、キスをした。何度も角度を変えてはキスを繰り返す。
 この瞬間を慈しむように、二人きりの光の中で、私たちは涙でぐちゃぐちゃの顔で抱きしめ合った。
「……遠距離恋愛、よろしくね」

 帰り道、目の腫れを冷やすためにも、バスを使わずにゆっくり歩いて帰ることにした。手をつないで、ろくに口を開かずに。
「……もう、親には言ったの?」
「うん。先週言った。大学のために用意してくれたお金を使ってくれるって。そして、絶対何が何でもプロになって恩返ししなさい! だって」
「はは、ありがたいね………感謝だね………」
「うん………萌も聞き分けよすぎでしょ」
「別れるのはやだ! って今駄々をこねたじゃん」

「あ、そうだ」
 家の近くにさしかかったところで、徹がリュックから何かを取り出した。
「いつ渡すか悩んだんだけど、はい。クリスマスプレゼント」
 私も思い出して、慌ててカバンからプレゼントを取り出した。
「メリークリスマス。あと3か月、たくさん思い出作ろう」
私は貯金をはたいて徹へマフラーを渡した。徹からはシルバーの指輪を貰った。シンプルで毎日つけられそうなデザインだ。
「別れようとしていたのになんで指輪を用意してくれたの?」
「別れたとしても、渡すつもりだったよ?これまでのけじめ的な」
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