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七十二候

第49章 橘始黄(たちばなはじめてきばむ)


 私はそんな鈴川先生からも作曲のアドバイスをいただいている。鈴川先生は和声やコード理論の引き出しが多すぎて、その話だけで一晩中語れるくらいらしい。次元が違いすぎる作曲家からのアドバイスを賜り、恐れ多くも素人の作品に活用させていただくこととなった。
 
 鈴川先生とは家が近所なため、最寄り駅まで一緒に帰る。
 お互い駅の出口が違うため、駅の改札を出たところで鈴川先生へ挨拶をしようとすると、鈴川先生は言った。
「先日の音楽コンクール、雨宮さんのクラリネットは本当に素晴らしかった。もっともっと自分の思う音楽を突き進んで欲しいな」
「自分の思う音楽……」
「誰かを想う愛おしさでいっぱいのモーツァルト、良かったよ」
「そ、それはやりすぎて反省しました……」私は顔を赤くして答えた。
「いいんだよ、みんなが同じ音楽を奏でてもつまらないじゃないか。雨宮さんらしさ、出していこう。きっと、もっとファンがつくよ。世界中、どこからでも」

 鈴川先生は茶目っ気のある笑顔で言った。
「じゃあ、また作品見せてね」そう言って颯爽と帰っていった。
「ありがとうございます、頑張ります!」

 私らしさってなんだろう。やりすぎたと反省したあの音楽コンクールでの演奏は良かったのか。
 吹奏楽のように、みんなでひとつの作品を演奏するような場面では個性は出さない。だけど、ソロは自分の演奏ができる。どちらも楽しいことに間違いはないけど、個性を発揮できるリサイタル、意識して頑張ってみよう。
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