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七十二候

第49章 橘始黄(たちばなはじめてきばむ)


 師走の忙しさとはまさにこのことで、12月は吹奏楽団の公演ラッシュであった。土日に1日2公演ずつの週が3回。つまりひと月に12回の演奏会を開催する。大晦日ももちろん公演だ。
 公演のない土日はエキストラで乗るオーケストラが入り、平日にはまもなく迎えるリサイタルやレモンの練習を控えている。私は大量の譜読みに追われていた。人生初のリサイタルまで控えているのに、大丈夫だろうか。12月に入って間もないが、既に疲労を感じている日々だ。
 来年についても、ソロリサイタル、先日のコンクールで2位だったぬーぼーとのデュエットのリサイタルや動画の収録、レモンのリサイタルで既に予定が埋まり始めていて、来年はまた海外のコンクールでも……と呑気に考えていたが既に無理かもしれない。
 欲を言えば、教室を開いてレッスンをしてみたいし、作曲も本格的に学びたいところだが、これは欲を出しすぎているかもしれない。
 吹奏楽団の諸先輩方は、そんな中でも忘年会もたくさん予定に入れているらしいが、私にはその器用さはまだ持ち合わせていないようだ。早くすべてをスマートにこなせるようになりたい。私はキャパが狭すぎる。
 
 今日は吹奏楽団の練習日で、終わってからは前田くんと秋田先生の自宅へレッスンに向かう。先生も当然クラリネット奏者だがヘビースモーカーだ。下し立ての緑のチェックのカシミヤマフラーに匂いが付かないか心配になる。先生の自宅に到着次第、カバンの奥底へマフラーを沈めた。

 練習後、秋田先生の自宅近くの居酒屋で、鈴川先生を交えて食事をした。徹にはもちろん連絡を入れている。今回は2人きりではないので、大丈夫だと判断された。
 そこで、鈴川先生からビッグニュースを聞かされた。
「東京オリンピックの開会式で使用する楽曲を提供することになったんだ」
「ええ!? すごいですね!」一同驚きを隠せない。
 徹もきっとオリンピックに出場すると信じている。その開会式で自分の知り合いの先生の曲が演奏されるなんて、本当に嬉しいこと。世界中のたくさんの人がその作品を聴いてくれるなんて、この上なく幸せなことだろう。
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