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七十二候

第48章 朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)


「こないだAKIにいろいろ教わってきたところだよ。上手くできるか分からないけど、やってみる」
「あのAKIか! それはすごく楽しみ。もしピアノが必要ならいつでも言ってね」
 そう言って前田くんは私に前菜を取り分けてくれた。こういうスマートなところも、きっとさぞかしモテるだろう。

 会計もスマートに支払ってくれた前田くん。割り勘を申し出たが、「1位のお祝い」ということで、お言葉に甘えることにした。パスタとトリッパがとても美味しかった。
 徹には後ろめたさはあった。だけど徹には誠実でありたいので、素直に伴奏をしてくれる前田くんとご飯に行ったと伝えたところ、やはり面白くなさそうだった。

「うん、分かるよ? 練習後はご飯ってなるのも分かるけど、気をつけてよね?」
「うん、普通に食べて解散したよ」
「奢られた?」
「うん、コンクールのお祝いってことで……」
「そうか……いらない心配ならいいだけど」
「これからも伴奏をお願いすることになる仕事仲間だから大丈夫だよ」
 徹の過保護が始まった。あまり心配させたくないから、あまり二人きりになるようなことはしないようにしようと、ちょっとだけ反省した。
 そりゃ逆の立場で、徹が女性の仕事仲間と食事に行くのも、考えてみれば心穏やかではない。徹はアルゼンチンでも変わらずモテているのだろうか。ふと気になってしまった。
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