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七十二候

第45章 地始凍(ちはじめてこおる)


 翌日、朝にも温泉に入り、富士山のパワーをもらう。肌がピカピカになって、完全回復をした私は都内に帰ってきた。
 今日の夜はAKIに会う。自然から着想を得た作曲が得意な彼女からアドバイスをもらうためだ。

 有楽町のバルでAKIと再会した。AKIはいつも派手な格好をしているが、今日は濃いピンクのカーディガンを羽織っていた。派手なものが似合う人だなと感じた。私はいつも無難な色を選びがちだ。
「わぁ、素敵なネックレス!」
「彼からお祝いに貰ったんだ」

 席につくなり山梨土産の銘菓とワインを渡した。今日の授業料だ。
 AKIは「コンクールおめでとう!」とスパークリングワインで乾杯をしてくれた。私は山梨で感じたものを写真を見せながら説明した。AKIは「すごい綺麗だね!ほんと、宝石みたい」と目を輝かせる。
「自然を見て感じたものから伝えたいメッセージや、聴いた人にどんな気持ちになってもらいたいのかを考えるとコードや拍子が決まってくる。コードは例えば……」

 AKIから作曲の極意を学び、次々とワインボトルが空けられていく。AKIもかなりお酒が強い。
「私さ」
 大量のアルコールを摂取しても顔色を変えないAKIが話を切り出した。
「アメリカに行くんだ」
「え!?」
 食べようとしていたポテトを落とした。
「彼氏がさ、アメリカ人なの。今は日本に住んでるんだけどね。で、このたび結婚することになりまして、そのままアメリカに住むことになったんだ」
「えー! おめでとう!!」私たちは乾杯をする。
「英語とか全然できないんだけどねー。しばらく大変そうだ」
「音楽活動はどうするの?」
「アメリカでも続けるよ。日本にもアメリカにも譜面も販売するし、呼ばれたらいつでも日本にも行くよ」
 いつでもって。宮城からいつでも東京にいくよ、みたいなノリ。面食らってしまった。
「すごいね、決断するのは悩んだ?」
「え? 全然。作曲はどこでもできるしね」
 私の様子を見たAKIは、何か感づいたようだった。
「萌ちゃんの彼氏はアルゼンチンでしょ? もしや、今悩んでる?」
「そうなの……」
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