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七十二候

第43章 楓蔦黄(もみじつたきばむ)


 無事今年の目標に掲げていたコンクールも最高の結果で終えることができた。しばらく余韻に浸っていたいが、相変わらず私は忙しくしていた。既に11月に突入していた。
 秋かぁ……紅葉を見て温泉に入ってみたい……と、高校時代の友人の遊びに行って楽しそうなSNSを見て思った。
 リサイタルまであとひと月余りに迫っており、私は今日も自宅で練習をしていた。学生へのレッスンやエキストラなどもコンスタントに予定されている。

 そんな中、玄関のチャイムが鳴る。モニターで確認するといつもの宅配業者さんだった。
「ありがとうございます」と宅配業者さんへお礼を言い、小さめの荷物を受け取る。なんと徹からだった。
 一体何を送ってくれたんだろうか。はやる気持ちで開封すると、綺麗な包装紙。よく知っているブランド名……。中にはよく知っているあこがれのネックレスが入っていた。
 慌てて徹に連絡を取っていい時間か確認をする。まだ深夜ではないことを確認し、メッセージを送った。文字を打つとき、手が震えた。
「徹! 今ネックレスが届いたんだけど……こ、これって……」
 すぐに返信が届いた。
「もっといいことがあったらお祝いしてって言ってたじゃん!」
 思い出した。吹奏楽団のオーディションに合格したときに話していたことだ。
 ――ありがと!お祝いなんていらないよ。もし、もっといいことがあったら、そのときお祝いしてよ。

 慌てて電話をかけてみるとすぐに繋がった。
「徹! こんな高価な贈り物、びっくりしすぎなんだけど! よかったの?」
「一応俺プロバレーボーラーだからね。見くびらないでよね」
 確かにそうだ。徹は私なんかよりも年収はうんと高い。
「もっといいことがあったらお祝いしてなんて言葉、よく覚えてたね……ありがとう……」
「もっといいことって何だろうなってあのときから考えてたけど、これはコンクールで1位を取った今だと思ったからね」
 胸が熱くなる。その気持ちだけでも充分だったのに。こんな立派なものを贈ってもらえるとは。
「毎日つけるから。ほんと嬉しい。ありがとう!」
「喜んでくれてよかったー。今度つけてる姿を写真送ってね」
「うん! 徹にもいいことがあったら贈らせてね」
「いいことね、いつになるかなぁ」
「いつになっても、待ってるよ」
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