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七十二候

第42章 霎時施(こさめときどきふる)


 演奏はやり切った、と思う。徹を想って演奏したからか、「甘いモーツァルトだった」「恋してる音だった」と聴いてくれた仲間から感想をもらった。
 大丈夫かな、自己主張しすぎたような……と途端に不安になってしまう。私の演奏はそんな風に聞こえてしまったのか、と恥ずかしくなる。
 やらかしてまったかもしれない。
 結果発表までは予選のときよりも不安な気持ちでいっぱいになる。だけどレモン・カルテットの仲間も前田くんも、まゆも、そして秋田先生、鈴川先生、AKI、そして両親も聴きに来てくれていた。たくさんの差し入れや花束を受け取った。
 すでに泣きそうな気持ちだったが、たくさんの人たちに支えられ、何とか結果発表に臨むことができた。
 結果発表は決して慣れることはない。目を瞑り、両手を組んでひたすらにこの空気に耐えていた。お願いします、どうか届きますように……。

「1位 雨宮 萌」

 そんな言葉が聞こえたが、一瞬なんのことなのか分からなかった。違う世界を外から俯瞰して見ているような感じ。
 だんだんと意識が現実に引き戻され、自分の目で1位だったことを受け入れる。
 やった……!遅れてやってきた喜びの感情と安堵が同時にやってきて、涙を流した。腰が抜けそうになったところをぬーぼーが助けてくれた。
 本当に私、やり遂げたんだ。私の音楽が受け入れられたんだ……。私はこの場の全員に深い深いお辞儀をする。

 生まれて初めて、1位というものをとった。

 隣にいてくれたぬーぼーは2位だった。お互い健闘を称え合う。
「おめでとう! 萌ちゃんすごいじゃんか!」
「ぬーぼーもね。レモンでワンツーフィニッシュだね!」
 
 写真を撮り終えて親の元へ駆けつける。親が泣いて喜んでくれていた。それを見てつられてまた涙を流し、親子3人で赤い目をした写真を撮った。
「お父さん、お母さん、本当にありがとう! ちょっと箔がついたかな……これからプロとしてもっと頑張るね」
「いつも応援してるからね。もっともっと萌の音楽がみんなに届くといいね」
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