第6章 旅立ちの時
メアリーはクザンに涙ぐんだ目を向けた。
「嫌われるから」
メアリーはそう言って、クザンに背を向けて目元に滲んだ涙を拭った。ーークザンに涙を見せないようにするために。
「……」
クザンは何も言えなかった。ただ、下を向いて、黙って口を固く結んでしまった。
「クザン」
クザンは顔を上げた。
「海賊になるには……船が必要よね?」
メアリーは空に浮かんでいる月を見つめた。
「……はい」
クザンは月明かりに照らされているメアリーを見た。
「ミーウは船をどうするつもりなの?」
メアリーは背を向けたまま、言葉を繋げる。
「まだ決めかねていて、今後どうするか、アユナとミシュラと話して……います」
一瞬だけ、本当に一瞬だけ、昔に戻ろうと思ったが……やめた。ーー海軍に所属している身として、天竜人に敬語を使わないことは処罰に値する。
「それじゃあ、お母様の船をミーウにあげて」
メアリーはクザンを振り返って笑った。
「地下の海に繋がる水路に昔、お母様が使っていた船があるわ。それをミーウにあげて。お願い、クザン」
クザンはメアリーの目を見た。ーーメアリーの目の色はミーウと同じ紅だ。ミーウの一族は皆、紅い目をしている。その色の意味をクザンは知っている。ーーその瞳が物語るのは悲しい歴史以外の何物でもないことを。