第6章 旅立ちの時
メアリーは口を開いた。
「メアリー、女王陛下なんて呼ばないで。メアリーよ、クザン」
メアリーは真剣な表情でクザンを見つめた。
「それは……」
クザンはメアリーの言葉に口籠った。
「できないの?」
メアリーは泣きそうな顔をした。
「昔みたいに、メアリーって呼んでくれないの?」
「……」
クザンは黙って、自分の足元を見た。
メアリーはそんなクザンに追い打ちをかけるかのように言った。
「……クザン……あなたは昔、わたしの上司だったのよ? それなのに……自分の部下の名前を呼べなくなってしまったの?」
「……」
クザンはずっと黙っている。
ー呼べるなら、呼びたい。昔のように。だが……。
「身分が……ありますので……」
ー身分に勝てるものなど、何もない。特に天竜人には……。
「……」
メアリーは目を閉じた。
「ミーウも身分を隠して、その2人と遊んでいたわね」
「……」
クザンは黙っている。
「そうしないと遊んでくれないから」
メアリーはそっと目を開けた。
「天竜人だから」
メアリーはクザンを真っ直ぐ見た。
「人殺しの子とか、逆らったら殺されるとか、何の力もないくせに権力だけを盾にしているとか言われるから」