第42章 知られたくなかったこと
エースはポツリと呟いた。
「……できない……」
ミーウは顔を覆っていた手を外して、涙で濡れた顔をエースに向けた。
「わたしが生まれる十数年前に……とある天竜人の一家がマリージョアから立ち去ったの。……天竜人ではない、普通の暮らしをしようとして……」
ミーウは目を閉じた。ーー荒れ狂う炎の中で聞いた、思い出したくもない話……。
「だけど……世界貴族であることを放棄すれば、当然のことだけど政府や海軍の庇護もなくなる。その状態で“元”天竜人という素性がバレてしまうと『殺しても海軍は動かない』という理屈から、天竜人への憎悪を抱いても泣き寝入りするしかなかった人達の報復対象になってしまう……」
ーおれが……お前たちのせいで、どんな思いをして生きてたか……知らないだろう。
「……実際に、その家族は……一般市民からの報復対象になった……」
ーー人間の憎悪とは、想像するだけで恐ろしい。何をするかわからない。
「わたしたちは……」
ミーウはまた、一筋の涙を流した。
「普通に暮らしたいと願っても……それが叶わない……」
ーーどれだけ、普通の暮らしを求めても……どれだけ、天竜人でありたくないと願っても、生まれた星の元がそこであったなら……それは叶わない願いなのだ。