第10章 あなたのためなら
「……」
(戻らなきゃ……)
ミーウが大楠に引き返そうとして、一歩を踏み出した、その時……。
ガサガサッ
草むらから、音が聞こえてきた。
「誰!?」
ミーウは後ろに跳んで構えた。草むらをジッと睨んで、相手の動きを見逃さないようにしている。
「おい、待てよ。ミーウ、おれだ」
草むらから出て来たのはキッドだった。
「……キッド、何で……」
「何でじゃねェよ」
キッドはミーウに近付くと、グッと腕を引っ張って自分の胸に抱き寄せた。
「え!? な、キッド!」
ミーウは顔を赤くして、キッドを自分から離そうとした。
そんなミーウの様子など気にしないで、キッドはミーウの耳元で小さく呟いた。
「無事でよかった……」
キッドはミーウの肩に顔を埋めた。
「え……」
ミーウは呆然としてしまった。ーーキッドがそんなことを言うなんて、思ってもいなかったからだ。
「さっき、この島へ海賊船が向かっているのを……大楠の丘から見つけたんだ」
「……」
ーうん、知ってるよ。ーーそう言えば話は早いのだろうが、そういう訳にもいかない。ーーキッドはミーウが覇気を使いこなせることを知らないからだ。
「もうすぐこの島に到着して、街を荒らすつもりだ」
「うん……」
「だから……」
キッドはミーウの肩から離れた。
「街の地下に行って、みんなと一緒に避難しようぜ。そしたら、たぶん海軍が助けてくれるはずだ」
キッドは少し悔しそうな顔をした。
「海軍に頼るのは屈辱だが……今のおれじゃァ、海賊の相手は無理だ」
「よくわかってるじゃないか、坊主」