第5章 土曜日
私は、玄関の灯りを付けると誰がこんな夜更けに来たのかと思っていた。
そして、その何者かにこう問いかけたのだ。
「どちら様ですか?」
「俺だよ、タカシだよ…」
そう、タカシがやって来たのだ。
時刻はすでに夜中の12時を回っていた。
「待って、今開けるから…」
私はそう言うと玄関のドアを開けた。
すると、タカシが泥酔した状態で玄関に入って来たのだ。
強か、みゆきで飲んできたらしい。
「お、俺だよ、俺、た、タカシだよ…」
かなり、ろれつが回っていなかった。
こんな状態で外に立たせておく訳にもいかず、私は玄関のタタキにタカシを上がらせた。
その時だった。
いきなり、私に抱き着いてきたのだ。
「お前さ、名前なんて言うんだっけ?」
タカシは私の名前を憶えていなかったのだ。
これにはちょっとショックを隠し切れない私だった。
「真帆よ、忘れたの?」
「真帆?お前、真帆って名前なんだな?」
酔っぱらった状態でそう言ってくる。