第4章 【五条悟】嫌よ嫌よも。【R18】
気付いていたのだ、たぶん最初から。
それでも、年下で呪術師として未熟な人間に惚れてしまったという事実を認めたくなくて、自分の心に嘘をついてきた。
それを黒く塗りつぶした凶器に変え、を苛んだ。
自分をこんな気持ちにさせるが悪いと、非のない彼女に理不尽にも怒り狂って。
五条は大きくため息を吐いて、片手で顔を覆い隠した。
「俺……は」
この手で、を押さえつけて、彼女の人権を踏みにじった。
少しも悪いなどとは思わずに、むしろ当然の権利であると笑って。
いくら押さえつけられても、泣きごと一つ言わず耐えてきたを何度も。
「馬鹿か……」
今になって、自分の気持ちを認めることができたなんて。
「だから言ったじゃないか、いじめないほうがいいって」
愚かしいにも、程がある。
「後悔することになるから」
先程の傑の言葉は、そういうことか。
本当に、馬鹿だ。
幼いと自嘲する権利もない。
滑稽なのは馨ではない。
他でもない五条の方だった。
親友の忠告に聞き耳を持たず、自分の気持ちから逃げいていた結果がこれだ。
大馬鹿者にも程がある。
今までにしてきた自分の醜い仕打ちが、覆い隠した黒い視界を、絶え間なく流れてゆく。
苦痛に歪んだ顔も、誰かに向けられた笑顔も、強張る顔も、頬を赤らめる顔も、耐えるように唇を噛みしめる顔も、もう思い出したくないものまで、全て。
涙を零してまで、嗚咽を噛み殺そうとした歪んだ顔が、瞼の裏から離れてくれない。
「俺は……馬鹿だ」
五条は顔を抑えたまま、しばらく動けなかった。
木造の茶色い床がじわりと歪んだ。