第4章 【五条悟】嫌よ嫌よも。【R18】
「お、おい……」
みっともないほどに声が掠れた。
裏返った。
だっせえ。
なんで俺はこんなに動揺しているんだ。
大嫌いな人間が泣いているんだぞ。
いつもなら嘲笑って高揚感に浸っているのに。
なんで、今……。
歪んだ高揚感が湧いてこない。
髪を燃やしたこと、酷い言葉を投げつけたこと。
が泣いた要因はこれに間違いない。
間違いないけど、その後に掛けてやる言葉が分からない、見つからない。
は自分が泣いていることに気が付いたのか、静かに指先で涙を拭い、指についた涙を眺め、くしゃりと顔を歪めた。
それでもなんとか笑おうと口角を上げたが、失敗しさらに溢れ出す涙に先ほどよりも顔をくしゃくしゃに表情を崩した。
「……ぅ、……ふッ」
堪えきれない嗚咽が耳の奥を通って脳みそにダイレクトにぶつかる。
心臓がぎゅっと、何かに掴まれ握りつぶされているような感覚が五条を襲う。
今まで見たことないほど、の苦しそうな声。
首を絞めていた時よりも苦しそうに聞こえるのはなんでだろうか。
あの時は愉悦を感じていたのに、今は一切感じない。
それどころか初めて感じる、身体の奥底から感じる凍てつくほどの冷たい痛みに、眩暈がしそうになる。
何を言えばいいのかわからずに立ちすくむ五条を横目に、は流れる涙を拭う事もせずにのろのろと、足首に巻き付く下着と脱ぎ捨てられたスカートを履いた。
よろめいてふらついて、時折転びそうになりながら、ばらつく髪の毛を隠すように制服の襟を立てた。
そしてそのまま稽古場を後に出て行ってしまった。
五条を責める言葉もなしに。
パタン、と閉じられた襖を五条は硬直したまま見つめていた。