第5章 【禪院真希】花吐き病
その時、タイミング悪く真希が教室に入ってきた。
どうやらなかなかグラウンドに来ない私を呼びに来たらしい。
真希の目と私の目がバチリと合って、私の口から花が零れる。
見られた見られた見られた見られた。
「オマエ、それ……」
「ち、がう……これは……」
言い訳しようにもパニックになった頭では何も思いつかない。
もう、隠し通すことはできない。
気付いてほしいと思いながら、私は自分の気持ちを隠した。
わかって欲しいと思いながら、私は何も言わなかった。
言えないとか、言わないとか。
そんなの自分が傷つきたくな言い訳に過ぎなくて。
何も言わなかったら、気付くわけないじゃんね。
「真希ぃ……」
私は、ポロポロと涙を零しながら真希の名前を呼ぶ。
真希は驚いた顔をしていたけど、何も言わないで私を見ていた。
彼女のことだから、もう薄々気づいてるんじゃないかな。
好きになった人が"普通の人"とは違う。
だから誰からも理解されることも共感されることもない。
同じになんてなれない。
だったらいっそのこと、理解されなくてもいいから、共感されなくていいから、今はただこの気持ちを伝えよう。
どうしてこんなに苦しいんだろう。
悲しいんだろう、辛いんだろう。
後ろ指さされることなんてしてないのに、どうしてそう思ってしまうんだろう。
どうして。
大事なだけなのに。
壊したくないだけなのに。
「好き」というただそれだけで、どうしてこんなにも―――。
「好きなんだ、真希のこと。ずっと好きだった」
はらり、と真っ赤な薔薇が零れ落ちた。