第4章 【五条悟】嫌よ嫌よも。【R18】
あいつはいつも真っ黒い長い髪の毛を頭の高い位置で結んでいた。
だが、先ほどの彼女はその髪の毛を下ろしていて。
真っ白いワンピースに散らばっていた。
髪を下ろした黒髪の女なんて腐るほどいる。
信号を待っていたあの群衆の中でも、あいつの出で立ちが目立った様子はなく、むしろどこにでもいるよくも悪くも普通の人間。
たった一瞬。
だが、ここまで詳細に見えたのは、覚えているのは。
俺から見れば、それは誰よりも眩しく見えたからだ。
あの袋は一体なんだ。
あの男から貰ったものなのか。
だからあんな嬉しそうな顔をしたのか。
とても近い距離にいた。気がする。
「デートかな?」
髪の毛も下ろしてるし、と俺を見ながら傑はそう言って笑った。
「青春だね」
もう、耐えられなかった。
胸が締め付けられるように痛む。
「寝る」
「ふ、くくっ……」
腕を組んで、額を窓に押し当て目を瞑った。
隣で傑が肩を震わせているのがわかったけど、俺の苛つきが爆発して術式"蒼"でいつ車体ごと吹っ飛ばすかわかんなかったから無理やり耳を塞いだ。
傑もそれを感じ取ったのか、「悟は本当にのことが……」と、続く言葉を呑みこみそれ以上は何も言ってこなかった。
たぶんその後に続く言葉は「嫌いだね」だろう。
ああ、そうだよ。
俺はあいつが嫌いなんだ。
心の中で吐き捨てる。
もうあいつの姿は見えない。
これからあの男とどこかに行くのかと考えるだけ吐き気がする程腹が立つ。
俺はオマエに気が付いたのに、オマエは俺に気づくことはない。
チッ、と弾けた舌打ちは、隣にいたはずの傑に届くことはなく、静かに消えた。