第27章 【石神千空】Love is blind.
壁際に詰め寄ったせいで、逃げ場を失くした。
今さっき来たばかりの千空「帰るから退いて」など言えるわけもないし、初対面だからこそ尚更言えない。
頭の中でどうやってここから抜け出そうかと考えあぐねていると、「お待たせしました~」と間延びした店員の声が聞こえた。
我に返り、テーブルの上を見るとから揚げやアボカドサラダが置かれていた。
「わ~っ、おいしそう~」
思わず零れてしまった言葉に、隣に座っていた千空が喉奥で笑った。
「ずっと食ってたんじゃないのかよ」
「食べてたけど、大人数だとさ量が少ないなって……」
「食い意地張ってんな」
「うっ……、だって食べるの好きだから……」
「ほらよ」
差し出されたお皿にはから揚げ2個とアボカドサラダが乗っていた。
不思議そうに千空を見ると、目を細めてどこか楽しそうな彼の表情が目に映り、は慌てて目を逸らした。
び、びっくりした~。
あまりにも綺麗な顔に心臓が大きく跳ね、顔が熱くなるのが分かる。
紛らわそうと勢いよくから揚げとサラダを食べ続けるに、千空は次々に料理を彼女のお皿継ぎ足されていく。
「……わんこそば?」
「どっちかつうと餌付けだな」
「え、私は野生動物かなにか?」
「人間も動物だから間違ってねえだろ」
「……………そっか、とはならなくない?」
「ふっ」
「いや、笑うところじゃないから」
独特の雰囲気が流れる空間に、最初こそ戸惑っていたが少しづつ居心地の良さを感じた。
つまらないと思っていた飲み会は、この時ばかりは少し楽しかった。